下げDR(需要抑制)の2つの目的と実施判断基準の違い
下げDR(需要抑制)には2つの異なる目的があり、それぞれ実施判断基準が全く異なります。この違いを理解しないと、実務で混乱が生じます。本資料では、両者の明確な区別と、それぞれの実施判断方法を解説します。
作成日:2025年10月12日CostBox-DR Series
下げDRの2つの目的(混同厳禁)
目的①:省エネ法対応
電力需給ひっ迫時の節電対応を目的とします。
明確な数値基準がある
市場価格で自動判断可能
電気使用量削減が評価される
エネルギー消費原単位改善に寄与
実施判断基準:
スポット価格 ≧ 50円/kWh
目的②:容量拠出金削減
容量市場コストの削減を目的とします。
事前に特定された日に実施
小売事業者が決定・通知
容量拠出金削減額が評価される
省エネ法の原単位とは無関係
実施判断基準:
容量市場における「実施日」の特定(小売電気事業者からの通知)
実施判断基準の根本的な違い
省エネ法対応:スポット価格基準
判断プロセス:
前日12時にJEPXスポット価格確定
翌日の価格を確認
50円/kWh以上の時間帯あり?
YES → 下げDR実施 / NO → 実施不要
特徴:
客観的な数値基準
自社で判断可能
ツールで自動化可能
容量拠出金削減:実施日特定基準
判断プロセス:
数日前~前日に小売電気事業者から連絡
「○月○日に下げDR実施依頼」
実施日が特定される
当該日に下げDR実施
容量拠出金削減
特徴:
小売事業者が判断
「実施日」という概念
スポット価格は参考情報
容量市場における「実施日」とは
STEP1:小売事業者の予測
容量市場で調達した供給力に対し、最も容量拠出金削減効果が高い日を予測します。
予測要素:
需給予測、気象予報、スポット価格予測、過去の実績パターン
STEP2:実施日の決定
小売事業者が「この日に下げDRを実施」と決定し、需要家に通知します。
STEP3:実施と効果
需要家が下げDRを実施することで、容量市場での調達量削減と容量拠出金削減を実現します。
実施日の特定時期
重要ポイント:
「実施日」は小売事業者が特定します。スポット価格は参考情報の一つであり、50円/kWh基準は容量拠出金削減では使いません。
実施判断の具体例(混同しやすいケース)
1
ケース①:スポット価格60円/kWh
省エネ法視点:
スポット価格=60円/kWh ≧ 50円/kWh → 省エネ法対応として下げDR実施 → 電気使用量削減を記録
容量拠出金視点:
小売事業者からの連絡あり? YES → 容量拠出金削減のため実施 / NO → 容量拠出金削減効果なし(省エネ効果のみ)
結論: スポット価格だけでは容量拠出金削減にならない
2
ケース②:スポット価格25円/kWh + 小売事業者から実施依頼
省エネ法視点:
スポット価格=25円/kWh < 50円/kWh → 省エネ法対応の下げDRではない
容量拠出金視点:
小売事業者から「実施日」として指定 → 容量拠出金削減のため実施 → 容量拠出金削減額を記録
結論: 小売事業者の指定があれば、スポット価格に関係なく容量拠出金削減効果あり
3
ケース③:スポット価格55円/kWh + 小売事業者から実施依頼
省エネ法視点:
スポット価格=55円/kWh ≧ 50円/kWh → 省エネ法対応として下げDR実施 → 電気使用量削減を記録
容量拠出金視点:
小売事業者から「実施日」として指定 → 容量拠出金削減のため実施 → 容量拠出金削減額を記録
結論: 両方の効果がある最良のケース
判断基準の比較表
実務での実施判断フロー
両方を統合したフロー(推奨)
01
前日12時:スポット価格確認
50円/kWh以上? → 省エネ法対応フラグON
02
小売事業者からの連絡確認
実施依頼あり? → 容量拠出金削減フラグON
03
実施判断
どちらか一方でもON → 下げDR実施
04
効果の記録
省エネ法フラグON → 電気使用量削減を記録
容量拠出金フラグON → 容量拠出金削減額を記録
両方ON → 両方の効果を記録
日々の運用では、両方の基準を確認し、それぞれの効果を正しく記録することが重要です。
よくある誤解と正しい理解
誤解①「スポット価格が高ければ容量拠出金削減になる」
スポット価格30円/kWh → 自主的に下げDR実施 → 容量拠出金削減効果がある
✓ 正しい理解:
容量拠出金削減には小売事業者からの「実施日」指定が必須です。スポット価格は参考情報に過ぎません。
誤解②「50円/kWh基準は両方に使える」
50円/kWh基準は省エネ法と容量拠出金削減の共通基準である
✓ 正しい理解:
50円/kWh基準は省エネ法対応のみに使用します。容量拠出金削減は実施日指定が基準であり、全く別の基準です。
誤解③「小売事業者の指定がなくても削減効果がある」
需給がひっ迫しそうな日を予測して独自に下げDR実施 → 容量拠出金削減効果がある
✓ 正しい理解:
容量拠出金削減は小売事業者の容量市場調達に連動します。事業者の指定なしには削減効果はありません。
実施記録の管理方法
省エネ法対応の記録
記録項目:
実施日時
スポット価格(50円/kWh以上を確認)
実施時間帯
電気使用量削減実績(kWh)
省エネ効果(原単位への寄与)
保管先:
省エネ法定期報告書用データ
エネルギー管理記録
容量拠出金削減の記録
記録項目:
実施日(小売事業者指定日)
小売事業者からの通知内容
実施時間帯
抑制量(kW)
容量拠出金削減見込額
保管先:
電気料金請求書(値引き確認用)
容量拠出金削減実績記録
統合管理台帳(推奨)
両方の効果を一元管理することで、実施状況を正確に把握できます。
記録例:
8/10: 両方の効果
8/15: 容量拠出金のみ
8/22: 省エネ法のみ
統合管理台帳の例
小売事業者との連携と結論
契約時の必須確認事項
実施日の通知方法
メール/電話/システム通知、通知責任者の連絡先を確認します。
通知タイミング
最短:当日何時、標準:前日何時、理想:数日前を確認します。
実施日の決定基準
需給予測の方法、スポット価格の考慮度、過去の実施パターンを確認します。
容量拠出金削減額の算定方法
抑制量の測定方法、削減額の計算式、請求書への反映時期を確認します。
結論:実施判断の2つの基準(必ず区別)
省エネ法対応
判断基準:
スポット価格≧50円/kWh
判断主体:
需要家自身
情報源:
JEPX(前日12時確定)
効果:
電気使用量削減
容量拠出金削減
判断基準:
小売事業者が指定する「実施日」
判断主体:
小売電気事業者
情報源:
事業者からの通知
効果:
容量拠出金削減
実務での対応:
両方の基準を日々確認し、効果を正しく記録することが重要です。スポット価格だけでは容量拠出金削減にならず、小売事業者の指定が容量拠出金削減の必須条件です。この違いを正しく理解し、それぞれの目的に応じた適切な判断と記録を行うことが、下げDR成功の鍵です。